筆者が懐中電灯にのめりこんだのは小学生時代、ガチャガチャで、ミニチュアのライトが流行っていたころに端を発するだろうか。
80年代のあのころはLED懐中電灯なんてものは普及しておらず(ミニ四駆のドレスアップパーツで田宮からは発光ダイオードのライトが出ていたが)、電球のライトばかりだったが、あのわくわくさせる道具を持つ楽しさは今でも忘れてはいない。
でもわざわざ、アメリカ製の軍事および法執行官向けライトを所持して何かに備えるなんてことは筆者をはじめとするヘーワな日本人にはまず不用だ。上西小百合議員なら間違いなくこう言うだろう。
『映画見てるだけのくせに、なんかと戦った気になってるのムカつく。自分のポケットの中の懐中電灯に映画の主人公の人生のっけてんじゃねえよ』
うるせえ(笑)っていうか、何気にパワーワードっぽくて、ツボにはまるセリフだこれ。
SUREFIRE 6P(旧型)が登場する映画『パニックルーム』
人生のっけるのっけないは別にして、闇を照らす道具である懐中電灯には『実用』だけではないロマンがある。少なくとも、自分はロマンを求めたい。とくにキセノンライトには。当然、その知名度から映画やドラマにも登場することが多いSUREFIRE製品。
ジョディ・フォスター主演の映画『パニックルーム』では娘サラ役のクリステン・スチュワートが向かいのアパートの住民に助けを求めるため、SUREFIREを間欠点灯させ、モールス信号でSОSを打つシーンがある。こうした方法がやりやすいのも、6Pの基本仕様が『カチカチ』のクリックスイッチではなく、指を離せば消灯するモーメンタリスイッチという特別な仕様だからだろう。
この作品は自宅に押し入った賊から身を守るため、パニックルームと呼ばれる非常用の密室に立てこもる母と幼い娘を描くクライム・サバイバル・サスペンスである。武器となるものは何もなく、防備に徹するのみの部屋(パニックルーム)。ただ、頑丈なドアだけが親子を護る唯一の手段だ。賊たちからの襲撃に抗いつつ、ときには賊を欺き、なんとか外部と連絡を取り、脱出へともがく母子の息詰まる攻防が見ものだ。ちなみに2002年の公開記念では素敵なプレゼントとして映画館来場者に懐中電灯を配るというオツなプロモーションを展開していたそうだ。ただ、SUREFIREではなかったようだが。
強盗らにプロパンガスを流し込まれ、万策尽きたって感じの母メグ(ジョディ・フォスター)の傍らで、11歳の娘・サラ(クリステン・スチュワート)が非常用品の詰まったトランクの中で見つけたSUREFIRE 6Pフラッシュライト(クラシック)。密室の壁にはパイプ状の空気穴が水平に部屋の外まで通っている。サラは、やにわにその穴へSUREFIRE 6Pを突っ込んだ。懐中電灯の間欠点灯を利用して部屋の外へSOSのモールスを打つためだ。
メグ母『どこで習ったの?』
サラ娘『……(映画の)タイタニック』
カチッ、カチッ……。サラがライトの後部スイッチを押すたびに密室にクリック音が響く。SUREFIRE 6Pの本来の仕様は押し込んでいる間だけ点灯する『モーメンタリ・スイッチ』であり、最後までカチッと押し込むクリック・スイッチと違ってカチカチと音はしないはずだが、映画の演出上仕方ないのだろう。ただし、過去には6P用純正部品として『Z59』というクリックオンタイプのテールスイッチが販売されていたので、それに換装されていたのかもしれない。
それにしても11歳の娘が懐中電灯の間欠点灯でSOSのモールスを打つ機転(という演出)に脱帽。ボーイスカウト文化根付くアメリカ。さすがである。
なお、このSOSのモールスでどんな結果を招くのかは、ネタばれになるので控えるが、サラにベランダの窓をチカチカとSUREFIRE 6Pで照射された向かいのアパートのオタクっぽい中年男性は、その眩しい光に気づきはするものの、どうやら元・ボーイスカウトではなかったことは事実のようだ。
ちなみに、たとえ助けを求めるためであっても、向かいの家がXファイルのフォックス・モルダー氏(連邦政府職員・55歳)の自宅だった場合はこの手の方法は控えるべきだ。近所の子供のいたずらだと看破され『おい、ガキ……今すぐやめないとリモコンしか残らないようにしてやる』などと言いながら、金属バットでドローンをブッ叩いて落としてたからな。2018版で。
そのオカルトドラマの代名詞にもなっているXファイルにおいても、SUREFIREは主にスカリー捜査官が何度か使用したライトとして劇中に登場していたので、別記事にて詳しく解説をおこなった。