『Xファイル』でモルダーとスカリーが使ってきた懐中電灯を作品レビューを挟みながら考察!

モルダーとスカリー、マグライトを捨て、ついに強力な警察向け戦術ライトを使う

強力なルーメン数を持つ、いわゆるタクティカルライトが米国の法執行機関や軍で一般的になっていった90年代中盤以降。このころ『Xファイル』のシリーズは5か6あたりに進んでいたと思う。シリーズ5あたりからモルダーとスカリーがポケットに入れ始めた懐中電灯は2種。これらを持ち始めたことにより、家屋内等の捜査能力が向上するに至る。

まずは一方の旧・レーザープロダクツ社時代のSUREFIRE 6Pからご紹介しよう。

スカリーがおもに愛用するSUREFIRE 旧型6P

画像の出典 File No.604 How The Ghosts Stole Cristmas 「クリスマス・イブの過ごし方」より(C)Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

スカリーは懐中電灯の伝説を作ったSUREFIRE社(旧・レーザープロダクツ社)の6Pを使用していた。90年代中盤、SUREFIREのパーソナル・ハンドライトは法執行機関や軍隊がこぞって導入した。旧型6Pは側面のロゴもなく、ヘッドのデザインも現行モデルとは異なっている。

SUREFIRE 6P(旧型)との違いと、当時の競合他社製品との比較広告

ただ、少なくとも『Xファイル』が作られるより前の80年代、すでにSureFire 6Pは存在していた。存在はしていたが、警察機関への普及は進んでいなかったのだろうか。少数精鋭のFBI捜査官には当時から愛用されていてもおかしくはなさそうだが……。ここらへんについては当方も研究不足である。

なお、90年代後半、FBIアカデミー卒業時及びSUREFIREトレーニングプログラムへ参加した際には、記念品としてG2Zコンバット(その後、LED化されたG2ZLに)が支給されていたそうである。卒業記念に和英辞典もらうよりよっぽどいい。現在は別モデルだとは思うが、なかなか興味深い話である。

考えてみればFBIの中でもモルダーとスカリーこそ真っ先に、SUREFIREのトレーニングプログラムへ参加を命じられそうな気がする。むしろ、経験豊富なモルダーが逆にSUREFIREトレーニングセンターのインストラクターに実戦を教え込んだりして!?とは言っても、劇中でモルダーとスカリーがHarries flashlight techniqueを魅せてくれるシーンは後述の新シリーズ2016版を除いて1回か2回だった気がするが。なお、モルダーらがFBI職員考案のRogers/SureFire flashlight techniquをやっていたことは一回もないはずだ。あれ、ドラマだと滑稽に見えるからなあ……。

さて、1999年12月12日に公開されたseason7のエピソード『ゴールドバーグ』はXファイルで主役二人が使うライトが気になるファンにとっては興味深いと言える。

この回は、冒頭でマフィア相手のポーカーで大勝ちした幸運の持ち主・ヘンリー氏(アパートの管理人)がマフィアに逆恨みされてビルの屋上から地下に突き落とされてしまうというムゴいシーンから始まるのだが、穴には不運(!?)なヘンリー氏はおらず、義眼だけが落ちていて現場検証を行うモルダーとスカリーは困惑する。

その場面で、まずスカリーがスーツのポケットから取り出して検証に使用していたのが、レーザープロダクツ社時代のSUREFIRE 6Pだ。画面に大写しになるので、1インチサイズのヘッド、太くて短い絶妙の黄金比サイズ、テールから飛び出したスイッチなどの特徴がよくわかる。なお、スカリーはテールを捻って点灯させている。

その後、義眼を頼りに二人はヘンリー氏が管理人を務めるアパートへ出向くのだが、そこで住民の主婦から水道のバルブを閉めてほしいと頼まれたモルダーはキッチンで水道トラブルうんぜんえんの修理業者役を買って出る。困っている市民を助けるのが暮らし安心FBI捜査官とはいえ、スーツ姿のモルダーがレンチ片手にシンクの下へもぐり込むクラシアン状態を傍らで笑いをこらえながら『クックック……』と見守るスカリー。ククク……。

しかし、逆に水道管のバルブを破壊したモルダーは、漏水によって脆くなっていた床を破って階下へ落下。尾てい骨を激しく打ったモルダーを上階の穴からSUREFIREで照らしながら唖然とも苦笑ともつかない表情で見つめるスカリーであった。

ただ、これはドラマの臨場感を出すための演出なのだろうか、スカリーが旧型6Pのテールをひねって点灯させるシーンではカチッという比較的大きな音が響く。現行の6Pオリジナルはテールスイッチを回しても音はしない。もともとこのライトの目的は戦術使用にあり、犯人に静かに忍び寄る警察特殊部隊が不用な音を立てない開発思想だ。

次いで、season6の第15話『スイート・ホーム』。このエピソードではモルダーとスカリーが疑似夫婦を演じるのも興味深いが、もちろんライト好きもこの回を見逃してはいけない。カリフォルニアの優良住宅地TOP5に6年連続でランキング入りしている『理想郷』を称する高級住宅街のアルカディアで3組の夫婦が行方不明になる事件が発生。二人は身分を隠し夫婦を演じて住宅街に移り住み、内偵捜査を行う。夜間、住宅街で近隣住民の飼い犬が逃げ出して側溝に入り込んでしまうのだが、そこでスカリーがポケットから颯爽とSUREFIREを取り出して、犬を探しに側溝にライトを突っ込むシーンがいい。

その傍らでは、ポケットからSUREFIREを取り出したスカリーを犬の飼い主である主婦が『何なのこの人……なんでそんなのポケットに入ってるの?』みたいにギョッとした顔で見つめるのも意味深げ。捜査関係者だと感づいた伏線か?ここでもスカリーがテールスイッチを回すとカチッという音が響いて点灯する。なお、旧型も現行の6Pもテールを回して点灯させるほか、ボタンを押し込んでる間だけ点灯するモーメンタリー・スイッチの2通りのスイッチが備わっている。

このシーンでは比較的、ライトの形状がわかりやすい。ヘッド前方にナーリングを施した形状、ヘッド後端がなだらかにではなく、急激に角度を落とす縁。そして本体テールから飛び出したスイッチ・ボタン。これは明らかにSUREFIRE旧6Pの特徴に限りなく合致している。

ただ、スカリーがSUREFIREを使うのはこれらのepisodeくらいで、非常に少ない。一方、モルダーはSUREFIREを使ったことはシリーズを通して一度も無いように思えたのだが、よくよく見ると、File No.604 How The Ghosts Stole Cristmas 「クリスマス・イブの過ごし方」でモルダーも使っていた。以下の画像を見ると良くわかると思う。

画像の出典 File No.604 How The Ghosts Stole Cristmas 「クリスマス・イブの過ごし方」より(C)Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

この画像を見ると、モルダーとスカリーはともにSUREFIRE 6Pを使っているように見える。ただ、本作品全体を通して、スカリーとモルダーがSUREFIREを使う場面は非常に限定的で数えるほどしかない。

STREAMLIGHT SCORPION( スコーピオン )……モルダーとスカリーが多用

前述したseason7の『ゴールドバーグ』の話の続きであるが、SUREFIREを使うスカリーとは対照的に、モルダーがアパート内でかくれんぼするヘンリー氏捜索にストリームライトのSCORPIONを使って壁の穴を調べているのが興味深い。

このシーンではモルダーの顔とライトがアップになるシーンがあるが、ライト本体は画面に半分しか映らない。だが、ライト本体にテールスイッチが見当たらないことや、特徴的なラバーボディーのデザインが見えるので『SCORPION』であることは明白。

なお、モルダーはテールをカチッとテールを押し込んで消灯し、乱暴にポケットに突っ込んでいた。ゴム製のボディだからFBI捜査官のモルダーのスーツのポケットにも優しそうだ。ゴム臭いけど。

season7の21話『三つの願い』にて貸倉庫の中を捜索するスカリー。その手に鈍く光るSTREAMLIGHT SCORPION。テールスイッチは内蔵式のため外部から見えないのが特徴だ。SCORPIONのデザインは見事に現在市販のものと同じだ。画像の出典 X-files 7-21 Je Souhaite (三つの願い)より (C)Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

ほかにも、series7の第9話『神のお告げ』においてもモルダーとスカリーの使うSTREAMLIGHT SCORPIONの登場率が高い。モルダーはスカリーとともに颯爽とポケットからSCORPIONを取り出して密売人の麻薬ハウスや神父のヘビ屋敷を探るのだ。

第12話の『Xコップス』ではギャングたちの家に突入するロサンゼルス郡保安官局のシェリフたちが重たそうなマグライト(時代的にキセノン球?)を構えて突入するのに対し、モルダーとスカリーの二人はともにポケットサイズのスコーピオンを使う。それでいて明るさはほとんどマグライトと同等で、指先でスコーピオンを軽々と構えるスカリーを見ると、やっぱり当時としては革命的である。もっとも、警官にとっては『長い金属製懐中電灯』でなければならない事情があるのだが。

またコメディ色の強い第19話『ハリウッドAD』ではモルダーとスカリーの実際の捜査に密着取材し、二人と実際の事件をモデルにした映画を撮ろうとするハリウッドの映画ディレクター(目の前で超常現象を見てもどこか冷めている現実主義者の彼)を描くが、教会の地下の探索でモルダーがディレクターと共にSTREAMLIGHT SCORPIONで光の筋を大いに描きながら、まさにドラマティックにナニかを探るシーンは見もの。

なお、このepisodeおよび、6-13 Agua Mala (アグア・マラ)ではモルダーとスカリーがライト本体を口にくわえていたが、それが出来るのも、スコーピオンのラバー製外装のおかげだろう。

完成した映画の試写会に招待されるモルダーとスカリー、そしてスキナー副長官。

ところで、この『映画』では、ゾンビたちを倒したモルダー役とスカリー役の2人が、丘を転げて棺おけに入ってしまうシーンで以下のようなやり取りが。

スカリー役女優『これは懐中電灯なの?モルダー……。それとも私の上に乗ってゴキゲンなのかしら?』

モルダー役俳優『僕の懐中電灯だ。ああ……そっちね』

モルダーは試写会の会場で『最悪だ……』という感じで顔を伏せるが、スキナーは興味深そうに笑ってみていた。スカリーは?

試写会を楽しんだ(?)3人は、そのあと高級ホテルの泡ぶろで、それぞれ優雅にバスタイム。スキナーの計らいで局のカードを使っていいそうだ。こちらも見逃せない。なお、カーシュ長官代理就任後は、これら経費の支出がのちの局内監査でモルダーを不利な状況に追い詰めていく一因となるのだが。あのハゲ、余計なことしやがって。いや、これもスキナーが最初から仕組んでいた……?

ドゲット捜査官登場

なお、モルダー失踪後、シーズン8にてXファイル課の後任として登場するドゲット捜査官、レイエス捜査官が登場するが、彼らもストリームライトのスコーピオンを使用する。

スカリーは当初、ドゲットに対して敵対的および懐疑的であった。なにしろ彼女とドゲット捜査官との初めての出会いは、彼女からの紙コップ水による洗礼という荒々しいものであったのだから。モルダーにいたっては初対面で『あんたがドゲット?』と言った直後、握手のために手を差し出したドゲットを突き飛ばすなどこちらも酷い。ドゲット捜査官かわいそう過ぎる・・・。

しかし、捜査中にドゲットから命を救われたことからスカリーは彼をパートナーとして認め、それまでデスクに鎮座させていたこの部屋の主である『FOX MOULDER』のネームプレートをそっと引き出しの奥にしまう心理描写はグッとくるものがある。

シーズン8の『爪痕』ではライトを構えて屋根裏を探ろうとするドゲットが、スカリーに『懐中電灯は?』と訪ねる場面がある。しかし、スカリーは一瞬言いよどんでから『……持たないっ!』と答えたのが、意味深。これが何を意味しているのかは、2016の小説版を読むとなんとなくわかるだろう。

実は『小説版X-ファイル2016』でモルダーが使うライトに興味深い描写あり!

実は本作においてストリームライト・スコーピオンは多岐のシーズンにわたって登場するとても息の長いライトである。実にseason6からseason9までモルダー、スカリー、ドゲット、レイエスの携行する懐中電灯としてほぼ固定されて登場し続けた。

おそらく2008年版の映画X-ファイル 真実を求めてにおいてもスキナーも使用していた。

シーズン6の17話『電界』にて、民家突入時にシグ・ザウアーとストリームライトを使用するモルダーとスカリー。(C)Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

このseasonが放映された97年から2001年にかけては、surefireが(軍隊や警察、それにミリタリーマニアなどから)人気だったと思うが、敢えて5年もストリームライト社のスコーピオンという一つの機種をXファイルで使い続けた理由は何だったのだろうか。強いこだわりを感じる。ストリームライト社がスポンサードしていた可能性も捨てきれない。冒険野郎マクガイバーでビクトリノックスがスポンサードしている例もあるしな。

モルダー捜査官愛用の『ストリームライト(STREAMLIGHT)スコーピオン』レビュー

なお、ストリームライトのスコーピオンは現在も当時とほぼ同じデザインと性能のものを購入できる。

さて、モルダーとスカリーの使う各種のフラッシュライトに言及してみたが、いかがだっただろうか。

ところでモルダーを演じたデイビッド・ドゥカブニーと、スカリーを演じたジリアン・アンダーソンによるトークショー(2008年)にてジリアンが以下のように発言しており、興味深かったのでご紹介。

G:私はナンバー1だった?ナンバー2だった?私たちの携帯がどんなに大きかったか
覚えてる?たまたまそれをポケットに入れてたというわけ。

(もうみんな笑い転げてる。)

D:そうさ。きみはそれをポケットにいれるために、トレンチコートとか着てないといけなかった。
G:片方に携帯、もう片方には Xenon のフラッシュライト。

翻訳と典拠元 My Library様 http://blog.goo.ne.jp/danayymulder/e/e56e5248b1384a717a137765ab8768c4

ジリアンは当時の時代背景を面白可笑しく表現するにあたって、当時劇中で使っていた小道具の前時代的さを引き合いに出すのだが、ライトをただのフラッシュライトではなく『Xenon (キセノン)のフラッシュライト』と表現するあたり、彼女自身も当時、仕事でライトを使ってきた人間としてライトには造詣が深そうに思えてしまう。

というよりも彼女、当時撮影中に何回かカメラの前でキセノンバルブが切れたことがあるんじゃないだろうか?それでNGシーン連発したりして『あー、またか、このクソがあっ!』ってキレたり?

ジリアン、っていうかスカリーが表現したこのキセノンのフラッシュライトは非常にデリケートであり、注意深く丁寧に扱わなければならない。また、普段使いに用いようと思うなら、ランニングコストが結構かかることになるので予算は多めに見積もりたい。

それについては、キセノンライトの傑作ライト・Surefire6Pの解説ページにて詳しくキセノンバルブの特性などを説明してみたので興味があれば一読を。

SUREFIRE 6Pが傑作と呼ばれる理由を解説

 

連邦政府の予算で捜査を行うモルダーとスカリーにとってはCR123A電池の価格もバルブ代も関係ないのかもしれないが……。とは言っても、モルダーは捜査費の使い過ぎを局の監査官に責められていた。何度も言うな。

モルダーとスカリーの懐中電灯まとめ

実はもともとこの記事は3万字を超えていた。ところが、ある筋(筋ものではない)から『長文とは自己満足である。とにかく読むのが大変で読者の立場になってない』と言われたので記事を分割した。

まあ、というわけで、X-ファイルと言えば、首に趣味の悪いネクタイ。ポケットにキセノンのフラッシュライト、ノキアのCellularphone、法執行官のバッジ。そして腰にはシグ・ザウアー(足首にワルサー)。移動はフォードのセダンのレンタカー(経理担当者からレンタカー代が高いと文句を言われても支局の覆面は使わない)。出張先で相棒と泊まるのはいつも安いモーテル(男女の捜査官が同じ部屋に宿泊するのは内規違反なので、当然部屋は別である)。土曜日なのにFBIに登庁するモルダー。これ。健康志向の豆腐アイスやヨーグルトに蜂の粉をぶっかけて食うスカリー。これ。エリア51のモリス職員がスカリーを「落とす」ために買いこんだウォーターベッドをちゃっかり自分のものにして使ってアパートを水浸しにするモルダー。これ。

なんといっても全米各地の安いモーテルに宿泊するモルダーとスカリー捜査官。ロードムービー的な情緒すら垣間見えるのも本作の魅力ってわけ。

というわけで、モルダーとスカリーがこれまでに使ってきた主な懐中電灯は以下の5つだ。

  1. MAGLITE(主にシーズン1から4まで)
  2. MAXA BEAM(主にシーズン1から4まで)
  3. Underwater Kinetics(主にシーズン2から4まで)
  4. STREAMLIGHT(主にシーズン6から9まで)
  5. SUREFIRE(主にシーズン6。かなり限定的に使用)

以上のライトになる。

劇中に登場した小物を手に、モルダー捜査官やスカリー捜査官になりきって彼らの当時の時代背景を愉しんでみたいと思うファンはこれらのライトで仲間同士とライトの光を交差させて『X』の文字を作って遊んだり、実用に使ったり、コレクションしてみてはいかがだろう。

そして、2016年及び2018年版で登場するライトは以下のページでご紹介している。

『Xファイル』2016年版で登場したライトの機種が判明!詳しく解説します!

 

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