お悔やみ欄詐欺未遂の松尾邦春はアマチュア無線で特定された!

2019年6月の後半から北海道内では奇妙な手紙による騒動が起きていた。新聞に掲載されているお悔やみ欄から、亡くなった人の住所を抽出し、その遺族へ卑劣な詐欺の手紙を送りつけている何者かが存在するのだ。いわゆる架空請求詐欺である。

発端はツイッターの投稿だ。

その手紙の内容とは簡略で要約するとこうだ。

お悔やみ欄を見て連絡をさせて頂きました。

私は荷物などを預かる貸しスペース業を営んでいる者ですが、そちらのご主人が私に預けた荷物があり、お悔やみ欄で亡くなったのを知って中を確認したところ、中身が違法なDVDでした。

違法であるために警察の捜査対象になると思います。

そこでこのDVD をこちらで処分をして、なかったことにするか、当方が警察へ通報し、ご主人の名誉を傷つけることになるか、選んでください。

手紙はまだ続く。これが今どんなに罪が重たいご時世であるか、どれほど警察やマスコミが騒ぎ立てるか、ということを手紙の差出人は述べる。そして、DVDを内密に処分することをお勧めすると提案をもちかける。

そして肝心な点は、貸しスペースの利用料金が14年分で168,000円であり、これを払ってスッパリ児童ポルノのことを忘れるか、警察へ通報されるかと遺族に迫っているのだ。

その上で、この貸しスペース業を営んでいる自称の者は自分の口座番号ならびに口座の名義を記載し、この手紙が届いてから三日以内に銀行へ振込しろと迫る。

お金を振り込んだ時点でDVDは処分するとし、入金されない場合は警察へ通報するとしている。

そして手紙の結びには、あろうことか『この手紙は脅迫ではありません。その点宜しくです』などと勝手なことを宣言した上で『本人が亡くなっているとはいえ利用料金を踏み倒さないで下さいね』などと結んでいる。

筆者もへたくそな文章を書いている以上、人のことは言えないが、お金の絡む正式な手紙ならばビジネス文法というものがあるだろう。それを『。。。』や、『と言う話です』などなど、ただただ気持ち悪い。

極めつけは『宜しくです』なんて結ばれた日にゃぁ、心底気持ち悪くてサブイボが立つ。

ツイッターの投稿者によれば、このような手紙が流行っているとのことであるから、実際に亡くなった人が貸しスペースに何かを預けたり、ましてや違法な物を預けていて、それを口実に強請られたとは考えにくい。

新聞のお悔やみ欄がこのような詐欺、空き巣の被害に利用されるのは珍しくもないが、このような悪どい手紙が送りつけられるとは、投稿者の言うとおり、本当に胸糞が悪くなりそうだ。

しかし巧妙な手口とは言えない。 文面から見る限りでは教育レベルが高そうな人間とは思えない幼稚な文体である。

しかも、手紙の文面には『お問い合わせメールアドレス』や『口座情報』など、送付した人間が簡単に特定されそうな情報をいくつか記載しているので、ツイッターでは記載された名前の人物に関する検証作業がすでに始まっている。筆者もこの場で検証してみたい。

すぐさま特定された理由とは

現在までに北海道内では複数の人に上記の詐欺の手紙が送られているようで、Twitter では二人のユーザーからの報告がある。

そして、この手紙の文面から Twitter のユーザーたちはなんとも驚くべき事に早くも口座名義人に関する情報、そしてそれが実在する人物であることを特定したようだ。

手紙の文面を見てみよう。どうやらこの手紙の送り主はご丁寧に振込先として銀行の振込先口座と名義人、メールアドレスまで自分で記載している。それによれば、名義人の名前は『マツオクニハル』となっている。

銀行口座は7月1日の時点で凍結されている。

メルアドのJR8MYKという文字列の意味とは?

そして、決定打となったのが、同じく文面に記載されたメールアドレスだ。メールアドレスのアットマークより先の部分の6文字の英数字の羅列に注目したい。

普通の人が見れば、とくに意味の無い数字の羅列に見えるだろうが、ある趣味を持っている人たち、それも北海道の人にとっては一発でわかる。ズバリ言うと、この『JR8MYK』という6個の英数字はアマチュア無線局のコールサイン(呼び出し符号)である。

YOUTUBEでアマチュア無線を運用している人たちの交信の様子を見れば、交信の前後に相手のコールサイン、そして自分のコールサインをつけて、呼び合っていることが分かるだろう。

そして『JR8MYK』の8の部分に注目したい。この数字はエリアナンバーと呼ばれるもので、8であるということは北海道内のアマチュア局のみに発行されるエリアナンバーであることを示している。

アマチュア無線のコールサインは自分で勝手に付けられるものではなく、総務省総合通信局という国の機関から、一人一人それぞれに独自のコールサインが発行されるもの。そのため、他の人とかぶりはしない。

だから簡単に特定できるし、むしろ電波を出している無線局が何者なのかを明示するためにこのような制度が設けられているのだ。

しかし、これは単に偶然、 アマチュア無線のコールサイン風になってしまっただけなのかもしれない。だからこのコールサインが実際にアマチュア無線局に付与されたものなのかどうかを調べた。

調べてみると、なんと『JR8MYK』が北海道内に実在するコールサインであることが、総務省の『無線局免許状等情報』にて裏付けれらた。

画像の出典 総務省無線局免許状等情報

以上に引用した画像のとおり、総務省では『無線局免許状等情報』という公開データベース内にて、アマチュア無線局など、警察や消防など重要な無線局以外の無線局の情報を広く一般に公開している。

ただし、コールサインならびに無線機の常置場所である市町村名、それにその無線局(アマチュア無線家)に運用が許された周波数や電波の出力などを掲載しているに過ぎず、個人名や個人の住所などといった個人情報は一切掲載していない。

ただ、無線機の常置場所は道東の佐呂間町となっていることがわかる。

一方で、海外のアマチュア無線関係サイトである qrz . Comによれば、『JR8MYK』というコールサインが、マツオクニハルという名前、そして佐呂間町という住所で登録されていることが確認できた。

上記の情報も登録すれば誰でも閲覧できる公開情報である。そもそも何のためにアマチュア無線家が氏名や住所を公開するのかと言えば、アマチュア無線には交信した証である証明書をお互いに交換しあう、いわゆるQSLカード交換という習慣があり、そのために相手の名前と住所、そして自分の名前と住所をどこかに公開しておく必要があるのだ。それがqrz . Comなどのサイトである。

また日本国内のアマチュア無線家は、JARLというアマチュア無線家の自主組織に入っている場合が多く、JARLでも無線家の名簿『JARL会員局名録』を出しており、こちらでも会員各局のコールサイン、氏名や住所などが掲載されている。

局名録も上述のQSLカード交換のための氏名と住所の確認に使用される資料だ。

ただし qrz . Comで登録するにあたっては個人情報やコールサインが分かる証明書類などの提出は不要なので、確定的とは言えない。

しかし、確率として『JR8MYK』=マツオクニハル氏の可能性が極めて高いとは言えそうだ。

『JR8MYK』マツオ氏が何者かにはめられている可能性も考えられた

ツイッターでも指摘されているが、詐欺を企む人間が、わざわざ自分の口座やメルアドを使うものなのかは疑念が残る。

ましてやアマチュア無線家なら、自分のコールサインから氏名や住所が簡単に足がつくことは重々承知のはず。

したがって、マツオ氏が何者かの悪巧みに利用させられているのではないかという疑念の声もあった。ただ、その場合、マツオ氏のメールアドレスと銀行口座がセットで悪用されていることになるだろう。

また、金銭を騙し取る目的ではなく、単にマツオ氏に対する嫌がらせなのではないかとツイッターで複数の人が指摘している。

追記 マツオクニハル名義の手紙は北見市内での投函か

7月3日になり、ウェブメディアなどが報じ始めたようで、それによれば、さらに詳しいことが分かってきた。

しらべぇ https://sirabee.com/2019/07/03/20162110972/

複数の人に届いているこの詐欺の手紙だが、手紙の消印は北見市内になっているという。

そして手紙の裏に書かれた差出人の氏名はカタカナで『マツオクニハル』となっている。

なお、北見市は佐呂間町の隣町である。

出典 グーグルマップ

追記

Twitter で以下のような指摘があった。

 

どうやら佐呂間町で投函した郵便物は、隣街の北見郵便局にて集配されるのか「北見」の消印が押捺されるそうである。

7月5日、犯人逮捕へ。被疑者はマツオクニハル本人だった

7月5日になり、羽鳥慎一モーニングショーでこの件が取り上げられた。それによれば、取材陣が佐呂間町の当該人物の自宅まで赴き、取材を行ったが、 当該人物は自宅におらず、母親とみられる女性が出てきて「口座名義人は息子です」と言ったという。またその当該人物の知人によれば「自分は全く知らない。迷惑している」と言っていたそうだ。また同番組で 取材陣が訪れた当該人物の自宅玄関にはジャールの会員証が貼ってあったという。

そして、同日夕5時ごろのどさんこワイドで『お悔やみ欄詐欺未遂で逮捕』の一報が流れ、逮捕された人物の名前を聞いて筆者は驚いた。読み上げられた被疑者の名前は『マツオクニハル』その人だったのだから。

「遺族は恥ずかしくてだまされると思った。100通送った」

北海道佐呂間町の無職・松尾邦春容疑者(52)は先月、札幌市南区の60代の女性に対して「あなたの夫から違法なわいせつDVDを預かっている」と書いた嘘の手紙を郵送し、自分の口座に金を振り込ませようとした疑いが持たれています。松尾容疑者は新聞のお悔やみ欄を見て手紙を送り付けていたとみられ、「金を支払わなければ警察にDVDを提出する」と書かれていたということです。警察の取り調べに対して松尾容疑者は容疑を認め、「遺族は恥ずかしくてだまされると思った。100通送った」と供述しています。

https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000158848.html

報道によれば、佐呂間町の無職・松尾邦春容疑者(52)は騙して金を得ることを目的として100通もの詐欺の手紙を送りつけていたそうだ。なお、容疑は詐欺未遂であることから、結局、騙された被害者は一人もいなかったのだろう。

無職・松尾邦春容疑者(52)は佐呂間町から延々、札幌市内の中央警察署まで警察車両で護送された。

まとめ

当初、筆者としてはアマチュア無線家(ハム)がこのような卑劣な詐欺をやるとは思えなかったが、フタをあけてみれば、逮捕されたのは松尾容疑者本人だったというのが、なんとも情けない。

SNSとまではいかないが、アマチュア無線の情報伝達の速さは驚くべきものがある。少なくとも、ネット発達以前は津々浦々のハムこそが最先端の情報通であった。

深夜のラグチューで、誰かが面白いローカルニュースや、どこかのハムが悪いことをしたなどの話題を振れば、明日にはあっという間に全国のハムに広がっている。

しかもアマチュア無線を受信機などで聞くだけなら、免許は要らない。だから、実際に交信をせず、アマチュア無線を聞くだけの人(タヌキウオッチと呼ぶ)を含めれば、その人口は開局者数よりも実際は多いのだ。

そして、ハムにとって自分のコールサインは氏名同様、かけがえのない尊いものであるはずだ。

だからこそ、ハムが悪事なんてと考えていた。ところが、犯人は本人、マツオクニハルその人だったのである。

そもそも北海道内でのアマチュア無線家たちの交信では今夜あたりからこの話題でもちきりになるのではないだろうか。

追記

ツイッター上ではJR8MYK氏が3年前の時点で、アマチュア無線のイベント・第39回オホーツクコンテストに精力的に参加していることが指摘されている。

CW(モールス)にも長けているようで、ハムとして知識、技量共に一定以上のものを持っている方とお見受けする。付与されたコールサインの『R』から察するに、ハムとしてのキャリアは少なくとも40年近いのではないだろうか。

それが、こんな低レベルな詐欺を企む人間だったとは……。

いずれにせよ、このような悪質な手紙を送りつけるような人間を社会はけっして許してはならないだろう。