NHKの情報番組「あさイチ」で紹介されたジビエ(野生動物の肉料理)が波紋を呼んでいます。
NHK公式サイト「あさイチ」のページより引用した「イノシシ(野生)肉の刺身」の画像。なぜかこのメニューはネットで問題提起されて以降、番組サイトから削除された。しかし、当該ページでは未だ経緯の説明や反論は無い。
報道機関による食品に対する報道はしばしば庶民から衛生観念の面で反感を抱かれることがあります。
例えば、韓国産のキムチの寄生虫卵が問題になった2005年当時に東京新聞が誌面で報じた「(寄生虫卵のついたキムチを食べることで)なあに、かえって免疫力がつく」という一文は大問題になりました。
そうかと思えば、2011年に焼肉店でユッケを食べた客らが死亡した「ユッケ集団食中毒死亡事件」ではどの報道も激しく焼肉店を叩いていました。報道に携わる人間の食に対する意識の低さというものを感じずにはいられません。
今回はNHKの朝の情報番組「あさイチ」にて、地元のジビエである野生のイノシシの生肉刺身が紹介され、同番組では「イノシシの生食は保健所が申請を受け付けた店でだけ提供ができる」と言ったことが波紋を広げています。
NHKあさイチ – NHKオンライン www1.nhk.or.jp/asaichi/
騒動の発端はNHKの朝の情報番組「あさイチ」の9月27日放送回における「沖縄県西表島のグルメ」紹介!
今回の騒動はNHKが放映している朝の情報番組「あさイチ」の9月27日放送回における「沖縄県西表島のグルメ」紹介が発端です。番組の中で、地元の店舗が出している「イノシシの刺身」という謎のメニューが紹介され、同メニューについてNHKでは「イノシシの生食は保健所が申請を受け付けた店でだけ提供ができます」と説明。
これが波紋を呼んだのです。
この「イノシシの刺身」とはあまりなじみがありませんが、どういったものなのでしょうか。「イノシシ肉の刺身」は沖縄県の名物料理なのでしょうか。
イノシシの刺身は現地の”習慣”だった
驚くことにイノシシの生肉刺身は八重山(八重山諸島)の習慣だとのことです。
古くから西表島では、猪を刺身で食べる習慣があります。
生態系維持のため、リュウキュウイノシシの狩猟が11~2月に解禁され、冷凍保存して年中食べます。少し臭みがあるけど、たれの醤油にニンニクとしょうがを入れることで、ほとんど感じなくなります。味もまあまあいける。典拠元 イノシシの刺身(八重山プチビックリ-その3-)
http://floating.exblog.jp/416791/
九州南部で発生する肺吸虫症例の約7割がイノシシ肉の喫食に起因するということは……。
九州南部で発生する肺吸虫症例の約7割がイノシシ肉の喫食に起因すると言われている。
典拠元 寄生虫症 – 国立感染症研究所
www.nih.go.jp/niid/ja/route/parasite.html?start=1
また、誰が書いたのかWikipediaの「沖縄料理」のなかにも下記のような説明がされていました。
西表島や石垣島ではイノシシ猟が行われ、刺身や炒めもの、汁などで食べられる。
典拠元 沖縄料理
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%96%E7%B8%84%E6%96%99%E7%90%86
自分で自己責任で食べるのならいいのかもしれませんが、飲食店がこのような肉を提供して危険ではないのでしょうか?そして法的な問題は?
だから今、波紋を広げているわけです。
「イノシシの生食は保健所が申請を受け付けた店でだけ提供ができる」 というNHKの言い分。本当なのか?
さて、このイノシシの刺身についてNHKでは番組内で「イノシシの生食は保健所が申請を受け付けた店でだけ提供ができる」と説明したと上記に書きました。
しかし、実際のところは「保健所がそんな許可を出すことはない」という意見が大半です。
その理由として「食肉加工場以外で処理された野生動物の生肉を飲食店が客に供することを厚生労働省はガイドラインで認めていないから」です。
現地の保健所でも「(野生のイノシシの生肉を)出しているのが発覚次第、指導する」としています。地元の飲食店では指導を覚悟のうえで出しているのでしょうか。
それについては、詳しくわかりませんが前述したように、野生動物の生肉を客に提供することは厚労省の定めたガイドライン違反。しかし、法律違反ではありません。
ただ、法律で禁止されていないとはいえ、ここまで大ごとになると今後は国が動くことになるのではないでしょうか。
腸管出血性大腸菌O111で死者が出たユッケ集団食中毒事件の様に。
「豚肉の生食はヤバいのに野生イノシシ肉の生食はいいの?なんで?」と疑問の声多数
野生鳥獣肉自体は一般の飲食店でも普通に提供されているもので何の問題もありません。
ただし、それらの野生鳥獣肉については食肉処理業の許可施設で解体されたものを仕入れ、十分な加熱調理(中心部の温度がセ氏75度で1分間以上又はこれと同等以上の効力を有する方法)を行うことと厚生労働省がガイドラインを定めています。
このため、主にツイッターにて『あさイチ』が紹介した「イノシシの生食は保健所が申請を受け付けた店でだけ提供ができる」という発言に対して「そんなわけがあるか」と疑惑の声があがっているわけです。中には保健所や沖縄県庁の担当窓口に問い合わせを行っている方もいるようです。
イノシシの刺身について沖縄県庁に電話してみた。食肉担当の方とつないでいただきお話を伺った。獣肉については危険性が高い認識で基本的に生食はNGと指導してるはずとの事。先方初めて事態を認識したのでこれより事態の把握に努められるとの事。えらいこっちゃと言う認識は共有してる感じ。
— ゆんゆん探偵 (@yunyundetective) 2016年9月27日
それらによれば、沖縄県庁でも「生食は基本的にいけないことで、許可はしないはず。これから調査します」と回答をしたそうです。
ただ、厚生労働省の示している基準はあくまでガイドラインであり、法律ではありません。提供していたとしても刑事罰は無いそうです。
野生動物の肉、何が怖いのか?
まず、E型肝炎。それだけでなく、カンピロバクターやサルモネラ菌など、さまざまなウイルスに汚染されている可能性が高いのです。それに加えて肺吸虫など寄生虫を体内に取り込んでしまう危険性も考えられます。
奇しくもこのような記事が報じられていました。
鶏レバーやささみの刺し身、たたきなど、鶏の生肉の提供を見直すように、
厚生労働省がこの夏から飲食店に呼びかけている。(略)
9、10月も食中毒の発生が多く、 引き続き注意が必要だ。引用元 朝日新聞社
http://www.asahi.com/articles/ASJ9R4S6TJ9RUTIL01L.html
これは野生動物の肉ではなく、一般の食肉加工場で処理された鶏肉に関する記事ですが、一般の食肉加工場で処理された鶏肉であっても生で食べるということは各種の危険性が伴い、国が規制に本腰をあげたということです。
野生動物の肉を食べる際は加熱調理が基本
しかし、E型肝炎ウイルスにしても、菌、寄生虫にしても、しっかりと加熱すれば問題は解決されることが大半です。言うまでもないのですが、ジビエを生食するなんて聞いたことがありません。保健所では野生動物の肉を生食することを許可するなど絶対にありません。このような番組に騙されて、野生動物の肉を加熱もせずに食べるということは絶対にしないでください。
食肉をめぐる事件……安心できない肉が普通に流通している
このような野生動物の肉が保健所の指導上等とばかりに一部の飲食店で供されていることは恐ろしいものです。しかし、大手企業であっても食肉偽装するなどして大事件に発展したケースはいくつも起きています。中には食中毒で死者も出ています。
ミートホープ事件(苫小牧市)
苫小牧市のミートホープ株式会社(自己破産)がクズ肉で牛肉ミンチを偽装し販売。
社長は逮捕されたが、以前から内部告発者が北海道警察へ告発していたにも関わらず
道警は「難件だ」「人員がいない」などの理由で捜査をしなかった。
クレストジャパン事件(滝川市)
滝川市の生鮮食肉業者クレストジャパンが結着剤を使って固めた肉を「ローストビーフ」として7年にわたって全国に販売。
食中毒菌の混入を防ぐため食品衛生法でローストビーフは一つの肉塊から作られることが決まっているが、
同社は「知らなかった」として偽装を否定。
保健所は、同社を食品衛生法違反の疑いで立ち入り調査したものの、警察は動かなかった。
ユッケ集団食中毒事件(富山・福井)
焼き肉チェーン店・焼肉酒家えびすにて出されたユッケによって客5名が次々に死亡。
原因は食中毒。富山県警などの合同捜査本部は
運営会社フーズ・フォーラスの元社長と肉の卸元の大和屋商店(東京都)の
元役員を業務上過失致死傷容疑で書類送検。遺族が賠償のために同社を提訴している。
イノシシの生肉の刺身騒動のまとめ
もちろん、現時点ではイノシシの刺身で死者が出たわけではありません。
「直ちに影響はない」ってやつですが、
東京新聞の「なあにかえって免疫力が」なんてことはありませんので、
ネット上の美味しそうなリュウキュウイノシシ刺身の写真にツラれて食べてしまうことのないようにご注意を。